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既存住宅流通活性化プロジェクト

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1. わが国の住宅問題 〜フローからストックへ〜

 本報告書が発表される2008年2月の時点で、わが国の住宅市場における既存住宅流通の現状や市場活性化の意義に関して長々とした前置きは不要かもしれない。
 わが国の既存住宅の流通数は、17.5万戸(住宅・土地統計調査H15)、46.1万戸(FRK既存住宅流通指標H15)、47.6万戸(不動産流通近代化センターH15)と推計方法による違いは大きいものの、新築住宅124.9万戸(住宅着工統計H15)に対してはシェアが低く、住宅取引の7割から9割を既存住宅が占める欧米諸国に比べると住宅市場が異様なまでに新築住宅に依存していることは間違いのない傾向である。
 これには、わが国の住宅政策が終戦直後の深刻な住宅難の解消を起源とし、その後は住宅政策が景気対策の意味合いも強く帯び、常に新築住宅の供給・取得が推進されてきたという経緯がある。しかし、少子高齢化の人口構造や財政問題、環境問題、社会的価値観など、ひとことで言えば“社会の変化"を前に、これまでのようなフロー重視の市場がもはや続けられないことは明らかになり、市場重視、ストック重視への政策転換がはかられた。

2. 既存住宅の流通活性化を巡る議論

 このフローからストックへの住宅政策改革は、平成12年(2000年)の住宅宅地審議会答申『21世紀の豊かな生活を支える住宅・土地政策について』ではじめて公的に提案され、その後、行政、政界、財界、研究者らが互いに連携して多くの議論と提言がなされてきた。現在ネットで容易に入手可能なものだけでも、主に以下のような通りである。
2002年 全日本不動産協会『全日紀尾井町フォーラム 既存市場の整備に関する研究』
2003年 社会資本整備審議会『新たな住宅政策のあり方について(建議)』
2003年 日本経団連『「住みやすさ」で世界に誇れる国づくり』
2004年 自由民主党『住宅政策の抜本改革に向けた緊急提言』
2005年 日本経団連(2005年)『住宅・街づくり基本法制定に向けて』
2007年 不動産流通経営協会(2007年)『既存住宅の流通促進に関する研究会』
 ここではひとつひとつ詳細な内容への言及はしないが、いずれも市場重視とストック重視の基本路線では大差がない。国土交通省ではこれらの議論と並行して、既存住宅の流通市場整備のための政策を次々と実行に移し、そして、改革路線の集大成として「住生活基本法」、10年計画である「住生活基本計画」をまとめた。
 さらに、それを受ける形で自由民主党から「200年住宅ビジョン」が提出され、ストック重視への方向転換は、具体的な形で動き出した。

3. 本プロジェクトの問題意識

 このように、すべてが語り尽くされた(かのように見える)状況の中で、われわれリクルート住宅総研が既存住宅の流通活性化について何かを語る意義があるとすれば、本研究が消費者の意見をもとにした検討結果であるというただ一点に尽きる。われわれのプロジェクトの関心のほとんどすべての部分は消費者の現実に注がれている。

 さまざまな改革政策により、2008年時点、マイホームの選択肢としての既存住宅に、少なくとも制度上は深刻な不利益やハンディキャップはないといってよい。しかし、新築住宅に比べて既存住宅の流通シェアが飛躍的に伸びているという現象は見当たらない。既存住宅の販売が好調なときは新築分譲住宅も好調であり、2007年後半から分譲市場が減速すれば既存市場もやはり足踏みをしている。
 理念や理論においてどんなに立派な政策でも、それが消費者の現実に合わなければ、その政策は期待どおりのパフォーマンスを発揮できない。現在進行中の住宅政策改革には、どこか消費者の現実を見落としている点はないか、というのが本プロジェクトの問題意識になる。

 先ほどあげた諸議論で展開されてきた既存住宅の流通活性化のための提案は、その論の立て方において次の2つのどちらか一方、あるいは両方の特徴を持っている。それはこれらの議論が小泉政権下で行われたこととも無関係ではあるまい。
・欧米諸国(特に米国)の不動産取引システムに学ぶ
・経済学理論に合理的な市場システムを再設計する
 乱暴に分類すれば、前者は住宅の資産価値を重視し、資産価値に対する不利益や非効率をなくすという考え方で、リフォームによる改修でストックの優良化を促進するとともに住宅金融の改革などが位置づけられる。後者は、経済学理論に基づき情報の不完全性を解消することで市場を健全化させる、すなわち市場が本来持っている機能を引き出そうとする目的で、性能表示や取引情報の開示などが提唱される。
 いずれも市場重視主義路線の中で相互に論拠を補完しあう形をとるのだが、問題は、このような改革は市場システム全体に働きかけるという大事業になるため、理性的合理的に導かれた“べき"論を、市場の現実、すなわちプレイヤーと消費者の現実に対して妥協しなければ実現しにくいということだ。ところが市場は全体が1つの大きなパッケージとして機能するため、一部のサブシステムが機能しなければシステム全体が機能不全を起こす。そしてその結果、改革は期待通りの実効性を得られないか、成果が出るまでに長期のスパンを要するようになる。
 消費者の現実と妥協しているもっとも端的な例は「既存住宅性能表示制度」や「マンションみらいネット」の低い普及率、業界の現実と妥協しているのが公開されている成約情報の網羅率、精度であろう。『200年住宅ビジョン』でも、住宅流通システム小委員会の報告には「すべての住宅を対象とするのではなく、既存ストックとしてのもっとも基本的な性能である耐震性が確保され、かつ、建設時の仕様がある程度明らかであるものを中心に検討を進めることとする。」と、半数に近いと思われる割合の既存ストックをばっさりと切り捨てている。この限定により、旧耐震の古いストックは建て替えるべきだという基本姿勢が明らかになるが、システムの及ぶ範囲を限定することで、200年住宅というシステムの機能が担保できるという効果も得られる。

 既存住宅の流通活性化の意義をあらためて考えれば、いまある既存ストックの多くを切り捨てたこと以外にも『200年住宅ビジョン』には疑問を呈さざるを得ない。
 『200年住宅ビジョン』はその理念で第一に「ストック型社会への転換の必要性」を謳っているが、その実、新築促進の性格が強い政策ビジョンである。200年住宅が切り捨てたものを見ると、資産価値が高い「いいもの」をこれからつくって、その先にストック型社会が到来するというビジョンが見える。少なくとも「いいもの」が世の中に蓄積されていくまでは、まだ当分フローを先行せざるを得ないというスタンスだ。

 今年2008年は、京都議定書の第一約束期間の最初の年にあたり、日本は2012年までの5年間で温室効果ガスを1990年比で6%(2007年比では15%ともいわれている)削減することを国際社会に約束している。環境問題への対応は、現在の住宅政策改革が盛んに議論されていた2000年代初頭に比べて、はるかに比重の高い課題となっている。

 積水ハウスは、一棟の住宅が30年間に排出する全CO2の約26%はその住宅が新築される時に排出されると分析している。さらに、住友林業の報告によれば住宅一棟の新築には約76.2tもの資源が投入され、新築に伴い解体した住宅からは一棟平均で42tの廃棄物が排出されている。いまある建物を壊して新築することがいかに環境負荷の大きい行為であるのか、消費者も産業界も、あらためて自覚を強くする必要がある。わが国の全CO2間接排出量の13%(2005年)は、自動車を除く家庭部門からのものであり、家庭部門からの排出量は一貫して増加している。
 住宅からのCO2削減には、行政と住宅産業が並々ならぬエネルギーを投入してきている。先ごろ発表された平成20年度の税制改正で「住宅に係る省エネ改修促進税制」が創設され、予算内示でも「住宅・建築物における省CO2対策の推進」に53億円が投じられた。しかし、同時に「200年住宅促進税制」も創設され、「200年住宅への取り組み」には135億円の予算が振り分けられている。ストック型社会への転換の大きな意義として環境問題を掲げるならば、短期的には古いストックの改修促進とともに、既存住宅の流通活性化こそ最優先し、環境負荷の高い新築行為が自然に抑制される流れが望まれるのではないだろうか。

4. 本プロジェクトの目的

断っておくが、本研究の意図は、既存の議論や既存住宅の流通活性化のために相次いで繰り出された政策やこれから予定されている施策を否定しようというものではない。『住生活基本法』や『200年住宅ビジョン』のストック重視の理念は積極的に受け入れたい。
 それでもなお、上に述べたような問題意識に基づき、既存住宅の流通活性化問題をもう一度消費者視点で見直してみたい。これからつくる200年住宅が十分行きわたった数十年後の流通市場ではなく、いま・ここにある既存ストックに対して、その流通市場をさらに活性化させる有効な手立てはないか検討したい。消費者の欲望と既存ストックの現状と環境問題が交差する地点から、既存の議論や政策に対してアンダーラインを引いて重点を補足したい、というのが本研究の立ち位置であり目的である。

文:主任研究員 島原万丈

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