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CGM時代のマンション購入行動に関する研究

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1. 現状認識 ― 日常化するCGM ―

 「Consumer Generated Media (コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア、略称:CGM)とは、インターネット用語の一つ。「消費者生成メディア」などと訳される。
 Consumer Generated Mediaとはインターネットなどを活用して消費者が内容を生成していくメディア。
 個人の情報発信をデータベース化、メディア化したWebサイトを指す。商品・サービスに関する情報を交換するものから、単に日常の出来事をつづったものまでさまざまなものがある。
 クチコミサイト、Q&Aコミュニティ、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、ブログ、COI(Community Of Interest)サイト等がこれにあたる。Viral的広がり(爆発的なクチコミ)を持つ事もある。」

 上記のCGMに関する記述は、「ウィキペディア(Wikipedia)」から引用したものである。「ウィキペディア」とは、不特定多数のユーザーが/インターネットを通じて/自発的に/無償で/書き込み・編集していくことで成立しているインターネット上の無料の百科事典である。英科学誌「ネイチャー」の調査によれば、「ウィキペディア」の正確さは百科事典の権威ブリタニカと互角と評価されるほど質が高く、日本語版の収録語数も37万項目を超え(2007年5月末現在)、今この瞬間にも成長を続けている。
 『ウェブ進化論(ちくま新書)』の著者である梅田望夫氏が、講演や勉強会等で「ウィキペディア」をWeb2.0(ウェブにーてんぜろ)の象徴的な例として好んで紹介するように、「ウィキペディア」はCGMによって達成された「群集の英知、集団の知恵(The Wisdom of Crowds」である。

 一生活者の実感値として、われわれの消費行動の中で、CGMがここ1,2年で急速にその影響力を強くしていることは疑いがない。
 たとえば、われわれが飲食店や旅行先の宿を探す場合は、実際にその店や宿を利用したことがある「誰か」の感想や評価を頼りにすることができるし、もし、パソコンやAV機器、あるいは自動車のような製品を購入する場合なら、新しい機能はメーカーが宣伝するほど便利なのか、それに上乗せ価格を支払う価値があるかどうかを質問すれば、その分野に詳しいマニア達が懇切丁寧に教えてくれる。女性であれば、ある化粧品が自分の肌に合いそうかどうか、自分と同じ年代で自分と同じ肌質の「誰か」の使用体験を参考にすることができる。

 CGMの普及によって、われわれは、従来であれば幸運にも身近にその商品の購入者やマニアがいなかれば、企業が発信した広告やカタログ、販売員のセールストークを信頼するほかなかった、「実際のところどうなのよ」という情報をさほどの労力なしに拾い集めることができるようになった。
 いうまでもなく、そのように集められる情報は、われわれ生活や一人一人が情報発信しているものである。2006年3月末時点で、自分のブログを開設している人はのべ868万人に達し、2007年5月時点で、SNS最大手の「mixi」には1000万人を超えるユーザーが集まっている。インターネット上にあらわれたコミュニティとも言われているこのような場で、人々は自分が体験した商品やサービスの感想や評価を発信し、その声が告ぎに何かを買おうと思っている人々のネット検索に引っかかって共有される。消費者は情報の受信者であると同時に、別の場面では情報の発信者になる。このようにして。CGMというメディアを巡って、ごく普通の人々の数え切れない体験や知識が、環が拡がるように循環しているのである。

 社団法人日本広告主協会がインターネット視聴率調査会社のネットレイティングス株式会社のデータを元に分析した結果によれば、主なCGMサイトの利用者・訪問数は2006年9月時点で3528万人、ネット人口の80.5%にのぼり、ウェブ利用全体に占めるCGM利用時間シェアは24%にまで達している。ネットレイティングスの萩原氏は、「2006年のネットトレンドはまさに『Web2.0』一色でした。」と語る。

 この事態を、マーケティングを実行する立場からみれば、消費者に届く情報を、マーケティングが独占しコントロールすることができなくなったことを意味している。
 広告主協会が早くから研究を始めていることがわかるように、現在、マーケティングにおいてCGMが注目すべきメディアであることはあらためて強調するまでもない。
 広告代理店や市場調査会社が中心となって、ブログや掲示板に書かれたクチコミ記事から消費者同行を分析する新しい手法の開発が模索されている。先進的な企業のなかには、クチコミ情報の収集・分析をマーケティング・マネジメントのルーティン化しているところもあると聞く。インターネットを検索すれば、ブログやSNSを活用したセールスプロモーションプログラムを提供する企業を見つけ出すのに何の苦労もない。『Amazon.co.jp』等のネット書店でマーケティング関連の書籍を検索すれば、売れ筋ランキングの上位には必ず「クチコミ」や「Web2.0」のようなキーワードが並んでいるのを目にするだろう。
 今、消費財を中心とするマーケティング界では、「CGM」がホッテストイシュー(Hottest Issue)と断じたとしても、大きな異論は出ないと思われる。

2. 問題意識 ― CGMは機会か、脅威か ―

 リクルート住宅総研では、2006年6月に発表した『ポスト団塊ジュニア考― 2015年。住宅市場は彼らを中心に回る』の中で、ポスト団塊ジュニア世代(1976年生まれ以下の世代)が、何か大きな買い物をする際にクチコミ情報を重視しており、情報源として、ブログやSNS、ネット掲示板などの利用率が高いことを指摘し、住宅不動産市場においても、今後はCGMの情報が消費者行動に大きな影響を与えるであろうことを予測した。

 同調査の結果は、住宅不動産業界の多くの企業で、トップマネジメント層を中心にご報告させていただいたが、そのような予測に対する業界の一般的な反応は「困惑」というべきものであったと思う。
 誠実に顧客満足度を高めていけば、顧客自身が自発的によい評判を広めてくれ、結果的に自社のブランド力向上に繋がる。CGMにはそのようなチャンスがあることを理解しつつ、しかし、その一方で、匿名の発言者によって自社や自社物件が批判されたり、あるいは顧客の不満体験が書き込まれ、悪い評判が広まったりする恐れがあることに対して、(控えめに言っても)警戒感を持たれているようであった。

 自社にとって都合がよいか悪いかのレベルではなく、より広い視野での問題意識も多く提議された。
 匿名の不特定多数が発信する無責任な発言、偏った価値観や偏見に満ちた物件評価、事実誤認、利害関係にある近隣住民による意図的なマイナス情報、時にはライバル企業からの妨害などなど、ネット上に"好ましくない情報"があふれかえることで、公正な競争が阻害される。また、消費者にとっても、CGMでネガティブな情報に接することで結果として"正しい判断・選択"を阻害されるようなら、それは消費者自身にとって不利益になる。また、判断を惑わされ、意思決定をためらい、購入期間が長期化することになれば、それは、市場全体での販売期間の延長を招き、そこで発生する販売コストの上昇分は販売価格へ転化されざるを得ない。こうして、CGMが"健全な市場に対する脅威"になりうるというものである。
 インターネット上のクチコミ情報の影響力が無視できない規模になってきていることを前提にして、それが機会であるのか、脅威であるのか判断しかねているというのが、現在の業界の平均的な捉え方であるように思われる。

3. 本プロジェクトの目的 ― 議論のレベルを引き上げる ―

 そこで、今回われわれは、住宅不動産市場におけるCGMをテーマにして、本プロジェクトを始動した。実際にはどの程度の人々が情報源としてCGMを利用しており、その結果どのような影響を受けているのか。現状の市場実態を正しく把握することで、上記のような業界の問題意識― 特に、危機感 ―に対して、議論の材料を提出したいと思う。

 インターネットは機会か脅威か。善か悪か。90年代後半、インターネット事態が普及し始めたころも同じ議論があった。同時代の問題意識として、携帯電話にも同じような議論がある。おそらく、テレビが普及し始めたころも同様だったと思われる。
 新しいメディアが登場すると、かならず、それは善か悪か、薬か毒か、機会か脅威か、賛否が分かれる。しかし、現実はおそらく、どちらでもないし、どちらでもある。良い面もあれば悪い面もある。歴史をふりかえれば、新しいメディアは両方を抱え込んだまま人々の間に拡がっていき、そのことによって、ビジネス上恩恵をこうむる企業もあれば損をする企業もあるだけのことだ。
 おそらくCGMも、それが人々に支持されるなら、業界が好むと好まざるとに関わらず、今後さらに拡大していくことだろう。それは消費者が、すなわち社会が、そのような情報の必要を感じているからである。いろいろと問題はあったとしても、その情報がない社会よりもそれがある社会が望まれているからである。善か悪か、薬か毒かの議論をいくら重ねたところで、われわれはこの流れを止めることはできない。

 そのような基本的認識により、ここでは、「CGMが機会か脅威か」という二項対立の議論に答えを出すことのみを、プロジェクトの目的とはしない。それよりも、現状でどのような機会があり、どのような脅威があるのか現状のプラス/マイナスを正しく見積もり、そこを越えてCGMの今後の可能性に対して考察をしたい。
 結局のところ、CGMが清濁併せ呑みながら普及していくとしたら、われわれ住宅不動産業に関わるものは、そこにどのように向き合うべきなのか。さらにこの先、市場として社会としてどのような可能性を見出すことができるのかを議論しなければならない。情報の発信者でかつ受信者である消費者自身の声を基にして、さらに、社会学、社会心理学等の知見の助けも借りながら、この問題に対する議論のレベルを引き上げたいというのが、本プロジェクトの目的であり、目標である。

文:主任研究員 島原万丈

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